新人研修合宿 オリエンテーリング(2) 着替え


「汗だくのままだと動きにくいでしょうし、まず着替えてもらおうかな」

 何気ない順子の言葉に早苗はキョトンとした表情を浮かべた。リュックサック以外の手荷物は何も持参していない。当然、着替えなど持ち合わせていないのだ。吉田や中島も同じだろう。

「あの・・着替えは持って来てないので、このまま始めていただいて大丈夫です」
「そういう訳には行かないわよ。汗だくのままで風邪をひかれたら監督責任を問われちゃうわ」
「でも・・」
「大丈夫。私と黒坂くんが用意しておいたのよ。あなた達が運んできたリュックの中に・・ええと吉田くんのリュックかな。その中に3人分の着替えが入ってるからそれ着ちゃっていいわよ」

 おもむろに順子が一番大きなリュックを開けた。中を探り、3つの紙袋を取り出す。

「これと・・これは男性用の着替えね。こっちが女性用と」
 手際よく吉田、中島、早苗の順に紙袋を手渡していく。紙袋の中に着替えが入っているらしい。
「さあ、チャッチャと着替えちゃって」

 ずっと事の成り行きを眺めていた吉田と中島は、手渡された紙袋の中身を確認すると、黙ってジャージを脱ぎ出した。二人とも汗まみれなので、着替えることに抵抗はなかった。上下のジャージを早々と脱ぎ捨て、下着のトランクスにも手を掛けた。

「きゃっ!」
 早苗はあわてて顔を背けた。
「よ、吉田くん、中島くん、何やってるの!」
「何って、紙袋の中に下着も入ってたから着替えようと思って。下着が一番汗だくだし」
「で、でも、こんなところで・・」

「あらあら?なにカマトトぶってるのよ早苗ちゃん。それとも男性の裸に免疫が無いとか?」
 順子のからかいに早苗は顔を赤くして俯くだけだった。

 順子の指摘は当たっていた。自分の父親以外に、男性の裸を見た経験が無いのだ。今まで早苗に言い寄ってきた男は星の数ほどいるが、しょせん外見目当てでしかない男達に不信感があり、今に至るまで異性と付き合った経験がない。当然、初体験すらまだだ。そのことに多少の引け目も感じており、大人の女性に対する憧れも強いのだった。

(へえ、早苗ちゃんって見た目も清純でウブだけど、まさかバージンかしら?面白くなって来たわね・・)

 順子は内心ほくそ笑んだ。早苗のような優等生にも案外と分かりやすい弱点があったものだ。うろたえる早苗に追い討ちをかけるように、順子は強い口調で詰問した。

「何やってるのよ早苗ちゃん?早くあなたも着替えてちょうだい!いつまでもグズグズしてると貴重なオリエンテーリングの時間が無駄になるのよ。それとも、せっかく私たちが用意して来た服がダサ過ぎて、あなたの美貌には似合わないとでも言いたいの?」
「そ、そんなこと・・でも私はこのジャージのままでも平気ですし・・」
「あなた個人がどうかっていう問題じゃないの。チームの方針として着替えましょうって言ってるの。分かる?一人だけ身勝手な行動は許さないわよ。これはチームワークを養成するためのオリエンテーリングなんだからね」

 冷静に考えれば筋の通らない理屈だが、吉田たちの裸体を間近で見た動揺のためか、早苗の頭は真っ白になっていた。その上、ヒステリックにがなり立てられて、反論する気持ちが失せてしまった。

 とにかくこの場は着替えておけばいい・・と観念し、早苗はキョロキョロと周囲を見回した。順子は待ってましたとばかりに、10メートルほど先の巨大岩を指さした。

「あそこの陰で着替えるといいわ。男どもが覗かないように私も一緒についてくから」
 言うなり、順子は早苗を先導してサッサと歩き始めた。早苗も渋々、順子の後を追った。

 その巨大岩は間近で見ると、体がすっぽり隠れてしまう程の大きさがあった。裏側にまわれば人がいることさえ気づかないだろう。

 順子は早苗の抱える紙袋を横合いから取り上げた。

「これ持っててあげるから、まず今着てるものを全部脱いじゃってよ。その方が早いから」
「えっ・・全部・・ですか?」
「女同士なんだから恥ずかしくないでしょ?手っ取り早く済ませましょ。あっちで男どもを待たせてるんだから。早く!」

 早苗としては女同士であっても裸体を見せたくはない。だがここでゴネても、また順子がヒステリックにがなり立てるだけなのは目に見えている。逡巡する気持ちを抑えて指示に従うことにした。

(そうよ、女性同士なんだから恥ずかしくないわ)

 無理に自分を納得させて、早苗は上ジャージのファスナーを下ろして行った。インナーのTシャツは中央にワンポイント付いただけのシンプルなものだ。躊躇せずに上ジャージを全て脱ぎ去り、手早く畳んで足元に置いた。

 すると順子が横から手を伸ばして、いま脱ぎ去ったばかりのジャージを奪い取った。
「いちいち畳むと時間がかかるから、脱いだらすぐ私に渡してちょうだい。私の方で畳んでおくから」
「は、はい・・」
 自分の衣服を他人に委ねるのは気が進まなかったが、早苗はコクリと頷いた。細かい事をイチイチ気にしていても仕方ない。とにかく早く着替えてしまおう・・。

 今度は下のジャージを脱ぐ番だった。これを脱げば下半身を覆うものは下着一枚となってしまう。ただインナーのTシャツは丈が長いので下腹部までは隠れるはずだ。早苗は意を決して下のジャージを下ろして行った。汗ばんだ大腿が外気に触れて冷んやりとしたものを感じる。ジャージを一番下まで降ろして足首から抜き取り、順子の手に渡した。

 生白い両脚が露わになった。太ももからふくらはぎまでどこも日焼けしていない。ふくらはぎの裏側にみなぎる張りは、健康的な色気を感じさせる。一方、太ももから脚の付け根へと遡るラインは肉感的で、女性らしさを感じさせた。早苗は恥ずかしそうにTシャツの裾を強く引っ張った。

「さあそのTシャツも早く脱いで」
 順子に促されて一度左右を確認した後、思い切って上半身のTシャツを脱ぎ捨てた。すかさず順子がTシャツを回収していく。これで上下とも、下着だけの状態となった。

 そこに現れたのは想像以上のプロポーションだった。レース模様の入った純白のブラジャーが、大きく盛り上がるバストをしっかりと包み込んでいる。細い身体からは想像のできない豊かな量感を湛えていた。腰のクビレは急カーブを描き、小さく引き締まった臀部へと続いている。臀部にはほんのり汗ばんだパンティが青白い肌にピタリと張り付いていた。

 早苗の美しいスタイルに順子はしばし見とれてしまった。だがもちろん、これで終わりではない。ごく冷静な口調で呟いた。
「あとは下着ね」

 やはり下着も着替えるのか・・と早苗は小さな落胆を覚えた。このまま黙っていれば着替えのジャージを渡してもらえるのでは、と微かに期待していたからだ。しかし順子が最初に言った「全部を脱ぐ」とは、文字通り一切の衣類を脱ぎ差って、全裸になる事を意味していたわけだ。

 晴れ渡った空の下、一時的とはいえ無防備な姿を晒すことに抵抗を感じないわけはなかった。巨大岩の向こう側、ほんの10メートル先には男子社員たちがたむろしているのだ。しかし肝心の着替え一式が順子の手に握られている以上、グズグズしていては逆に下着姿を男たちに目撃されかねない。ここは順子の言うとおり一度全裸になってでも、さっさと着替えを済ませた方が良い。

 早苗は胸元を左腕で覆い隠し、右手を背中へと回した。ブラジャーのホックに指をかけ、思い切って留め金を外した。締め付けられていたバストが解放され、重力に従って前方へせり出す。豊かな膨らみがこぼれ落ちそうになり、あわてて左腕に力を込める。そのまま躊躇せず左右の肩紐を外し、慎重にブラジャーを抜き取った。

 早苗がおずおずと右手に握っているブラジャーを、順子は強引に掴み取った。次の一枚を脱げ、という指示でもあった。

 早苗は空いている右手をパンティに掛けたものの、踏ん切りがつかなかった。左手は胸を隠しているので自由に動かせない。パンティを脱いでいる間、下腹部を隠す方法が無いのだ。だがここまで来て恥ずかしがっている訳にも行かない。

 パンティに掛けた指に力を込め、少しずつ引き下ろして行った。純白の布地が指に絡まりながら面積を狭め、白く清らかな下腹部が露わになっていく。どこまでも続くかと思われた真っ白な海原に、やがて黒々とした影が姿を現わしていく。早苗は恥ずかしさにギュッと目を閉じた。艶やかな恥毛は汗に濡れ一部が素肌に張り付いてもいる。総じて柔らかそうな毛並みだった。

 最後の一枚をようやく足首から抜き取ると、順子がそれを即座に奪い取った。

(は、恥ずかしい・・)
 早苗は左手で胸部を隠し、右手で下腹部を覆い、羞恥に悶えながら立ちすくんだ。よく晴れ渡る空の下で、ついに一糸纏わぬ姿と成り果ててしまったのだ。

「せ、先輩、早く着替えの服をください」
 いつまでもこんな姿でいる訳にはいかない。早苗は焦りを顔に浮かべて順子に懇願した。

 だが順子は無言のまま、なぜか巨大岩の表側へと視線を向けている。
「ど、どうしたんですか、先輩?」
「黒坂くんだわ。早苗ちゃん、ちょっとそこで待ってて」
 そう言い残して順子は巨大岩の表側へとスタスタ歩いていった。

 今しがた早苗が脱ぎ捨てたジャージや下着、それに着替えの入った紙袋は、全て順子が抱えたままである。早苗は全裸で一人、巨大岩の裏側に取り残された。
「そ、そんな・・」

 すると突然、黒坂剛士の声がすぐ間近で聞こえた。
「あ、池下先輩。いつまで二人してそんな所でコソコソやってるんですか?早く始めましょうよ。あれ?早苗ちゃんは?」

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